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島本町の文化財を知っていただくために、企画展や刊行物に掲載することができなかった話などを連載していくことといたしました。連載テーマなども統一せず、不定期で更新していきます。
今回は水無瀬家所蔵資料のひとつ、水無瀬忠政(ただまさ、1881-1963)の貴族院(参議院の前身)議員関係史料の中から見つかった昭和12年(1937)大阪府発行の書籍『皇太后陛下大阪府行啓奉迎記録』を紹介します。
少し前のことですが、天皇皇后両陛下が2025年日本国際博覧会(略称:大阪・関西万博)の会場を視察(2回目)されるため、10月に大阪府へ行幸啓(天皇と皇后両陛下が一緒に外出されること)になることが発表され、話題になりました。
時を遡ること、88年前の昭和12年(1937)、大正天皇の皇后で昭和天皇の母である貞明皇太后陛下が大阪府へ行啓(皇太子や皇太后などが外出されること)になり、当時、大変話題になりました。
実はあまり知られていませんが、この時、皇太后陛下は水無瀬宮(現在の水無瀬神宮)を参拝されています。
最近、水無瀬家所蔵資料の中から、行啓の翌年に大阪府が発行し、関係者に献本されたと思われる記録が見つかりましたので少しご紹介したいと思います。
記録は、『皇太后陛下大阪府行啓奉迎記録』という書籍で、一見して優美で格調の高い装丁から記念品に相応しいものと言えます(写真1)。
【写真1】『皇太后陛下大阪府行啓奉迎記録』表紙
装丁を少し詳しくみると、表紙まわりのクロスには、高貴さを象徴する「菊花」と「桐」の図案が施され、小口(裁断面)には金箔が加工されています(写真2・3)。
【写真2】「菊花」と「桐」の図案 【写真3】「菊花」と「桐」の図案
また、書籍は「永遠」を意味する霞文様が施された帙(ちつ、カバーのこと)に包まれ、桐箱に収められています(写真4・5)。
【写真4】帙 【写真5】帙のクロスに施された霞文様
記録には、皇太后陛下が国宝の客殿(現在は重要文化財)内の御座所(ござしょ、天皇・貴人の居室、写真8)でお休みされたことが記されています。また、国宝の茶室(現在は重要文化財)で水無瀬忠政のお点前を遊覧されたことなども詳細に記されているほか、口絵には当時の水無瀬宮や島本村の景色や人々の写真が採用されています。
最後に当時(昭和12年)の島本町の景色や人々の姿が収められた口絵写真をいくつか紹介いたします。

【写真6】水無瀬宮御参拝状況(写真中央が貞明皇太后陛下)

【写真7】水無瀬宮客殿

【写真8】客殿内に設けられた御座所

【写真9】水無瀬宮茶室

【写真10】拝謁者による奉迎の様子(水無瀬宮境内)

【写真11】赤十字社社員による奉拝の様子(水無瀬宮前)

【写真12】軍人遺家族等諸団体による奉拝の様子(水無瀬宮前)

【写真13】高齢者による奉拝の様子(島本村沿道)

【写真14】青年団員等生徒による奉拝の様子(島本村沿道)

【写真15】御通過道路改修の様子(※場所不明)

【写真16】貞明皇太后陛下に献上された絹の緞通(だんつう、手織りの高級絨毯)